ノエルのベットの傍らに、アスリが座っていた。その左手は肩から無くなっていた。
「すまない・・、」
「いいんです。もう壊れていましたから。それに私はもうポンコツな時代遅れのロボットですから・・・」
窓の外を眺めていたギーガードは、向きかえって言った。
「彼女の新しい腕は、もう用意できてるよ。」
リウスの夕焼けは遠ざかり、赤い宇宙は再び暗闇に包まれていた。窓の向こうに広がるのは黒い空間だったが、黒い宇宙空間の方が無限の広さを感じさせる。
ノエルは、病気やケガで入院した事がなかったし、何もしない日々を過ごすという事がなかった。虚しく、苦しいという人生感だったが、何らかの選択枠が用意され生きてきた。安全な枠の中で、裏切らず、疑わず、尽くしてくれるアンドロイドに守られて、楽に生きてきた自分が情けなく思えてきた。
「何の為に生きているのか」という青臭い哲学は、安全枠しか知らない人間にとっては、無限の理由付けが有り、そのどれもが正しく、どれもが当てはまらない気がした。
「もしかしたら、今頃宇宙をさまよっていたかもしれない」
死が現実に降りかかってくると、死ぬのは怖かった。ノエルは、真っ暗になった宇宙を眺めた。ずっと眺めていると黒い空間の中に、濃かったり薄かったり変化しているに気がついた。
アスリの新しい左腕はむき出しの金属だった。人工培養皮膚の移植手術は、船内ではできなかったのだ。
「この際、腰と膝の関節のかえてしまった方がいいな」ギーガードは、アスリのスキャン映像を眺めながらノエルに言った。
アスリは、部屋の向こうでコーヒーを入れていた。
「アスリは俺の所有物じゃない、彼女の意思を尊重するべきだ」ノエルが言った。
「俺は技術主任だから、この船内の機械を修理する義務があるが・・・、アスリは大量生産化される前の、100%ハンドメイドの特殊なアンドロイドだ。」
「アスリは、アンドロイドの開発がもっとも進んでいた頃の人工頭脳を備えた。あえてプログラミングせず、生殖能力を保持している人間の中で成長して、学んでいくという方法を行った人間に近いアンドロイドだ。」
ギーガードは、アスリをチラッと見た。
ノエルも、アンドロイド史で聞いた事があったが、実際にそに時代のアンドロイドには有った事がなかった。
「アスリはそんなに古いアンドロイドなのか」
「多分、50年以上前だ。あまりにも人間のような人格を示してしまった為、研究も開発も生産も、ストップされた。その生き残りなんだ」
新しいコーヒーを持ってアスリが来た。
「これは本物のコーヒーです、クローンじゃないものです。」
「アスリ、今度君の記憶データを映像化してみたいんだ」
ギーガードは、コーヒーを受け取りながら言った。
「はい、私でよければ・・・、でも、記憶が最近所々消えてしまったり、時間経過の整理バラバラになってしまっています。」
「君でもそんな事があるのか」ノエルは、左手でコーヒーを受け取った。
「歳ですから」と言ってアスリは微笑んだ。
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コメント
そうですか。俺も父親入院の時は、泊まらないにしてもほぼ毎日通いました。多分、猶予ない状態だと思いますが、自分の体調にも気をつけて下さい。
投稿: ムラムラ | 2009年2月23日 (月) 21:00
更新されてから一週間近くたっていることに愕然としていますが、やっと読めました。想像していた展開にならず、ホッとしています。
今、舅の入院している病院に交代で泊り込む毎日を送っているので、なかなかPCに触れません。
投稿: 永田電磁郎 | 2009年2月23日 (月) 16:44