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2009年2月27日 (金)

古いトンネルにて

おれの家の近くに古くて小さなトンネルがあった。昼間でも薄暗く、中はひんやりとしていた。入口から出口の光が見える短いトンネルだった。

小学校に入ったばかりの頃は、登下校の時、毎日トンネルを眺めた。その頃には、小さなトンネルは大きくてどこまでも続いているように見えて、向こうには違う世界があると思っていた。しかし、特に利用する事がなく、いつしか気にもとめなくなっていた。

小学校6年の一学期に、イチオ君が転校してきた。帰り道がいっしょなのもあってすぐに仲良くなった。

彼の家は、トンネルの向こうだった。ある日、初めて遊びに行く約束をした。

「トンネルを出て5件目だからね」

「うん、じゃ後で!」

そう言えば、トンネル通るの何年ぶりだろう?おれは、自転車のスピードを上げて、トンネルを通った、ほんの10秒ほどで抜けてしまうほど、短くて狭かった。

トンネルを抜けると昔からあった古い家が三軒あって、その向こうに新しい家が並んでいた。イチオ君の部屋には、なんでもあったし見た事のないようなデザインのものがいっぱいあっった、あまりに見た事がない本などがあって、別世界のような感じがした。

「前都会にいたから、いろいろものは買ってもらったんだ」

しばらくして、トンネルとは反対の道で町ヘ出た。

いつもの町が、何か違う感じがしたが、あまり気にとめなかった。

「あれ?あんな店あったっけ?」

「あれは去年できたじゃん」

「そうだっけ」

イチオ君今年引っ越してきたんじゃなかったっけ?町は、変わってないような、まったく別のような感じがした。横を通り過ぎた車が、少し前で止まって、男の人が、話しかけてきた。

「慎二じゃないか?」

「えっ、違います・・」

その人は知らない名前を呼んだ、怖くなって逃げてしまった。ふと見るとイチオ君は、そのおじさんに向かってにっこり笑っていた。

その年の夏休みは、イチオ君と毎日のように遊んでいた。

いつものようにトンネルを通って向こうに出ると、大雨だった。

「おかしいな、さっきまで晴れていたのに?」

困っていたら彼が、傘をさしてやってきた。

「今日は、こっちから出よう、あっちの道、工事やってるよ」

トンネルを戻ると空は晴れていた。

夏休みの中旬から、なにかしらいろいろあって彼とは会わなくなっていた。おれがいない時、彼が本を返しにきた時、いっしょにメモを置いていった。

(大雨の後の8月20日には、トンネルにはいらないように)

「どういう意味だろう?」

久しぶりに、トンネルの向こうに行くと、古い家が3軒しかなかった。夏休みが終り学校へ行くと彼はいなかった。先生も、クラスメイト達も、あまりはっきり彼の事を覚えていなかった。俺も次第に彼の事は忘れて、何か幻のように思えてきた。ただ、一枚のメモだけが残った。

それから月日が流れ、おれは家庭を持ちトンネルの事はすっかり忘れてしまっていた。

その年の夏は、異常気象で大雨が続いていた。車で、走っていると息子の慎二とにている少年がいたんで、声を掛けてしまった。

「慎二じゃないか?」その少年は警戒して逃げてしまったが、いっしょにいた少年にも見覚えがあったが、思い出せなかった。

息子は、最近トンネルの向こうの新しい住宅地の友達と仲がいいらしかった。

夏休みになって、息子はトンネルを通ってよく遊びに出かけた。

「明日もイチオ君のところで勉強するから」

慎二は、そう言って二階へ行った、明日は8月20日だった。

俺は、あのメモを思い出して、本棚から古い本を取り出して久しぶりにメモを見た。

(大雨の後の8月20日はトンネルに入らないように)

外は大雨だった。

次の日、急遽会社を休んで息子が行きたがっていたイベントを見に行った。その帰りにトンネルの前を通ると何人か人がいて、バリケードが置かれていた。近くに車を止め見るとトンネルは崩れて埋まってしまっていた。

しばらくして、おれはトンネルの向こうへ行ってみた、そこには舗装され整備された道があった。息子といっしょにその家と尋ねたが、そこはもう誰も住んでいない空家だった。

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