2009年3月15日 (日)

文章より、ニュアンス

Zxxc

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2009年2月27日 (金)

古いトンネルにて

おれの家の近くに古くて小さなトンネルがあった。昼間でも薄暗く、中はひんやりとしていた。入口から出口の光が見える短いトンネルだった。

小学校に入ったばかりの頃は、登下校の時、毎日トンネルを眺めた。その頃には、小さなトンネルは大きくてどこまでも続いているように見えて、向こうには違う世界があると思っていた。しかし、特に利用する事がなく、いつしか気にもとめなくなっていた。

小学校6年の一学期に、イチオ君が転校してきた。帰り道がいっしょなのもあってすぐに仲良くなった。

彼の家は、トンネルの向こうだった。ある日、初めて遊びに行く約束をした。

「トンネルを出て5件目だからね」

「うん、じゃ後で!」

そう言えば、トンネル通るの何年ぶりだろう?おれは、自転車のスピードを上げて、トンネルを通った、ほんの10秒ほどで抜けてしまうほど、短くて狭かった。

トンネルを抜けると昔からあった古い家が三軒あって、その向こうに新しい家が並んでいた。イチオ君の部屋には、なんでもあったし見た事のないようなデザインのものがいっぱいあっった、あまりに見た事がない本などがあって、別世界のような感じがした。

「前都会にいたから、いろいろものは買ってもらったんだ」

しばらくして、トンネルとは反対の道で町ヘ出た。

いつもの町が、何か違う感じがしたが、あまり気にとめなかった。

「あれ?あんな店あったっけ?」

「あれは去年できたじゃん」

「そうだっけ」

イチオ君今年引っ越してきたんじゃなかったっけ?町は、変わってないような、まったく別のような感じがした。横を通り過ぎた車が、少し前で止まって、男の人が、話しかけてきた。

「慎二じゃないか?」

「えっ、違います・・」

その人は知らない名前を呼んだ、怖くなって逃げてしまった。ふと見るとイチオ君は、そのおじさんに向かってにっこり笑っていた。

その年の夏休みは、イチオ君と毎日のように遊んでいた。

いつものようにトンネルを通って向こうに出ると、大雨だった。

「おかしいな、さっきまで晴れていたのに?」

困っていたら彼が、傘をさしてやってきた。

「今日は、こっちから出よう、あっちの道、工事やってるよ」

トンネルを戻ると空は晴れていた。

夏休みの中旬から、なにかしらいろいろあって彼とは会わなくなっていた。おれがいない時、彼が本を返しにきた時、いっしょにメモを置いていった。

(大雨の後の8月20日には、トンネルにはいらないように)

「どういう意味だろう?」

久しぶりに、トンネルの向こうに行くと、古い家が3軒しかなかった。夏休みが終り学校へ行くと彼はいなかった。先生も、クラスメイト達も、あまりはっきり彼の事を覚えていなかった。俺も次第に彼の事は忘れて、何か幻のように思えてきた。ただ、一枚のメモだけが残った。

それから月日が流れ、おれは家庭を持ちトンネルの事はすっかり忘れてしまっていた。

その年の夏は、異常気象で大雨が続いていた。車で、走っていると息子の慎二とにている少年がいたんで、声を掛けてしまった。

「慎二じゃないか?」その少年は警戒して逃げてしまったが、いっしょにいた少年にも見覚えがあったが、思い出せなかった。

息子は、最近トンネルの向こうの新しい住宅地の友達と仲がいいらしかった。

夏休みになって、息子はトンネルを通ってよく遊びに出かけた。

「明日もイチオ君のところで勉強するから」

慎二は、そう言って二階へ行った、明日は8月20日だった。

俺は、あのメモを思い出して、本棚から古い本を取り出して久しぶりにメモを見た。

(大雨の後の8月20日はトンネルに入らないように)

外は大雨だった。

次の日、急遽会社を休んで息子が行きたがっていたイベントを見に行った。その帰りにトンネルの前を通ると何人か人がいて、バリケードが置かれていた。近くに車を止め見るとトンネルは崩れて埋まってしまっていた。

しばらくして、おれはトンネルの向こうへ行ってみた、そこには舗装され整備された道があった。息子といっしょにその家と尋ねたが、そこはもう誰も住んでいない空家だった。

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2009年2月18日 (水)

ノエルのベットの傍らに、アスリが座っていた。その左手は肩から無くなっていた。

「すまない・・、」

「いいんです。もう壊れていましたから。それに私はもうポンコツな時代遅れのロボットですから・・・」

窓の外を眺めていたギーガードは、向きかえって言った。

「彼女の新しい腕は、もう用意できてるよ。」

リウスの夕焼けは遠ざかり、赤い宇宙は再び暗闇に包まれていた。窓の向こうに広がるのは黒い空間だったが、黒い宇宙空間の方が無限の広さを感じさせる。

ノエルは、病気やケガで入院した事がなかったし、何もしない日々を過ごすという事がなかった。虚しく、苦しいという人生感だったが、何らかの選択枠が用意され生きてきた。安全な枠の中で、裏切らず、疑わず、尽くしてくれるアンドロイドに守られて、楽に生きてきた自分が情けなく思えてきた。

「何の為に生きているのか」という青臭い哲学は、安全枠しか知らない人間にとっては、無限の理由付けが有り、そのどれもが正しく、どれもが当てはまらない気がした。

「もしかしたら、今頃宇宙をさまよっていたかもしれない」

死が現実に降りかかってくると、死ぬのは怖かった。ノエルは、真っ暗になった宇宙を眺めた。ずっと眺めていると黒い空間の中に、濃かったり薄かったり変化しているに気がついた。

アスリの新しい左腕はむき出しの金属だった。人工培養皮膚の移植手術は、船内ではできなかったのだ。

「この際、腰と膝の関節のかえてしまった方がいいな」ギーガードは、アスリのスキャン映像を眺めながらノエルに言った。

アスリは、部屋の向こうでコーヒーを入れていた。

「アスリは俺の所有物じゃない、彼女の意思を尊重するべきだ」ノエルが言った。

「俺は技術主任だから、この船内の機械を修理する義務があるが・・・、アスリは大量生産化される前の、100%ハンドメイドの特殊なアンドロイドだ。」

「アスリは、アンドロイドの開発がもっとも進んでいた頃の人工頭脳を備えた。あえてプログラミングせず、生殖能力を保持している人間の中で成長して、学んでいくという方法を行った人間に近いアンドロイドだ。」

ギーガードは、アスリをチラッと見た。

ノエルも、アンドロイド史で聞いた事があったが、実際にそに時代のアンドロイドには有った事がなかった。

「アスリはそんなに古いアンドロイドなのか」

「多分、50年以上前だ。あまりにも人間のような人格を示してしまった為、研究も開発も生産も、ストップされた。その生き残りなんだ」

新しいコーヒーを持ってアスリが来た。

「これは本物のコーヒーです、クローンじゃないものです。」

「アスリ、今度君の記憶データを映像化してみたいんだ」

ギーガードは、コーヒーを受け取りながら言った。

「はい、私でよければ・・・、でも、記憶が最近所々消えてしまったり、時間経過の整理バラバラになってしまっています。」

「君でもそんな事があるのか」ノエルは、左手でコーヒーを受け取った。

「歳ですから」と言ってアスリは微笑んだ。

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2009年2月13日 (金)

「シールド圧力低下」

「太陽風の磁場の影響で、シールドが不安定になっています」

緊急事態発生の警報が鳴り、管制室に乗務員達が集まった。

「ノエルがポットで作業に出てる」

「ヤバイな、隕石が直撃したら吹っ飛ぶぞ」ギーガードは、急いで連絡した。

「ノエル、緊急事態が発生した。太陽風の影響でシールド圧力が低下して、岩石が直撃している。至急帰還しろ」

「了解」ノエルは事態を飲み込めなかったが、アスリはすぐにロッカーから宇宙服を取り出した。

ノエル達が乗ったポットは、巨大な船体の中程まで来ていた。宇宙空間には、無数の岩石が浮遊している、シールドが弱った瞬間にそれらが、船体にぶつかってきた。

ノエルとアスリは急いで宇宙服を着て、イスに座ろうとした瞬間、ポットが大きく揺れた。

ノエルの身体は、浮き上がり、弾け飛んだ天井の穴に猛スピードで向かった、ノエルは、宇宙に放り出て死ぬんだと思った。その時、右手が引きちぎれるほどの衝撃が走った、アスリの手がノエルの腕を掴んでいた。左腕は、船内の一部を掴んでいた。

空気が抜けて、真空状態になったポットは格納され、ノエルとアスリは、床に転がり落ちた。アスリの左腕は伸びて壊れ、握られた手は動かなかった。白く濁ったオイルと血のような赤い液体が噴出した。

ギーガードは、ノエルの腕を握っているアスリの指をやっと広げて離した。骨は砕けているかもしれなかったが、今頃ノエルは宇宙を漂っていた事だろう。

「アスリすまない、ありがとう」

ノエルは、担架に乗せられアスリを見ようとしたが、身体に力が入らなかった。全身打撲のような状態になった身体は、麻痺していた。

ギーガードは、アスリの身体を起こしてヘルメットを外した。

「アスリよくやった、ノエルは無事だぞ」

アスリは、力を出し切って動けなかった、内部充電の為に人間のように眠るアスリは、気を失った。

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2009年2月 9日 (月)

恒星リウスの光に照らされ、オルフェウス号の甲板は赤白く輝いていた。ノエルもアスリも、その光をばんやりと眺めていた。

「地球では、毎日夕方があったのに眺めた事なんてなかったよ」ノエルは、独り言のように言った。

「アスリ、君は地球ではどこにいたんだ?」

「イギリスのスコットランドの特殊居住地域です」

「特殊居住地にいたのか!」

特殊居住地とは、人間の国立公園だった。生殖機能が正常な人間が生活している地区だった。

「私は最初育児プログラムの研究チームに配属されて、一般家庭に同居していました。」

「それで、庭に種巻いたりしてたのか」

「はい、イギリス人はガーデニングが、大昔から好きみたいなんです」

アスリの表情は明らかに、その頃の生活が楽しかったように見える変化があった。

「なんか、いい思い出みたいだな」

ノエルは、アスリがもし人間だったら一生会う事がない人種だと感じた。ノエルのような人工受精児の親はそういった生殖機能が正常な人達だったが、代理母によって生み出され、育児センターで育った人々は、親を知らされないのだった。

ポットは、オルフェウス号の真ん中まで来ていた。

大量の水素が含まれる宇宙空間を高速で飛行していると、船体との摩擦によって急速に暖められた水素が、飛行機雲のように尾を引いた。彗星の尾のように、はっきりして長いものではなかったが、船体の後方に向かって白い帯が伸びていた。

宇宙船の先端から、隕石などの衝突防止の為に防御フィールドが張られている。そこに当たった隕石が砕けて塵になって行く時、太陽の光が反射して雪が舞うように見えた。リウスの夕日に照らされた、それは一層キラキラと輝いていた。

甲板の見回りでの仕事は、隕石のカケラなどによって破損がないかチェックすることだった。

「アンドロイドは、何の為に生きてるんだろう、とか考える事あるのか」

「私は、任務を果たす為に生きていると思われますが」

「あ・・・、そうだな、つまり何を望んでいるかとか、そういう事なんだと思うけどな」

アスリは、ノエルの顔をじっと見ていた。

「基本的には、プログラムを達成する為に行動するのが、アンドロイドです。自分の意志はないのです。」

「つまり俺には、その任務とか目標がないんだな」

アスリは、ノエルの虚しさを感じ取っていた。しかし、それに対する何かしらの答えはわからなかった。正常な生殖器官を持って、昔のような生活をしている人々は、子共を産んで育てる事がほとんどすべての目的といってよかった。アスリは、そんな人間達と暮らしていた時が幸せだった事も感じていた。

アスリは、今までに何人もの悩み苦しむ人々を見てきた。彼女は、ノエルにキスした。

オルフェウス号は反転して、ノエル達の乗ったポットは影に入っていた。リウスの光は消え真っ暗な夜空が広がった。

ノエルはロボット三原則を思い出した、アスリが人をなだめようとするのもプログラムだとしても、自分が同情されたいのには変わりない事を感じていた。

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2009年2月 7日 (土)

一人称はやめる。

(一人称の文章だけで物語を進めていくのは、限界があるし無理だとわかった。どうも特定の主人公にしぼったストーリー展開が、おれは苦手らしい。一人ひとりの人のストーリーが浮かんでくるけど、それを無理やり絡ませるのは変だと思ってしまう。通常いの小説なりなんなりはそれが当たり前だけど、それがどうしても不自然に感じてしまう。昔からそうだったなぁ)

いつ終わるともしれない夕焼けの宇宙空間を、オルフェウス号は進み続けた。

大きな船体の中身は、スコッティへの供給物だった。ありとあらゆる機械、建設資材などだ。その中には、「土砂」が大量にある、元々T-R87にスコッティ隊が調査に降り立った理由は、海があったからだった。

乳白色の海に生物はいなかったが、大気があり、地球ぐらいの重力があった。それだけでも地球的な要素がある星は存在しなかったのだ。

「土」は、人工の公園などを基地の中に作る物だった。

アスリは、鏡を見て左の肩から上腕にかけて巻かれた包帯を取っていた。怪我をしているように見えるその包帯の下のガーゼには、黒いオイルのような液体が滲んでいる。

「今日は少し多いかもしれない・・・」

アスリは、服を脱いで洗浄液と培養人工皮膚の栄養補給剤の入った風呂に入った。脇の下辺りから黒い液体が滲んでいた。アスリは、腕を回そうとするがスムーズにいかなくなっていた。肩関節の磨耗とひずみで消耗した部品はもう限界だったのだ。

アスリは見た目には20代のように見えたが製造から60年たった、古いアンドロイドだった。長い歳月が彼女に与えたのは記憶だった。記憶の連鎖と元々彼女に埋め込まれた女性の記憶が、徐々に人格のような自我を作り上げたのか、彼女は人間のような感情を示した。

彼女は、埋め込まれた女性の記憶をも自分自身の人格として認識してしまうようになったのだ、本来人間的要素のデータとしての役割を果たすはずのセルフデータだった。それが一番顕著に表れたのが、美容的な事で、培養人工皮膚の老化が彼女の悩みだった。

アスリは、自分の身体が徐々に壊れはじめている事に、不安を感じていた。消耗部品は代える事ができるが、動力機と頭脳系統は動かなくなったら終りだった。

アンドロイドが物思いにふけったり、考え事をしたり、悩んだりするプログラムはなかった、つまり自然にそうなったという事しか、この現象について答えはなかった。

ノエルは、いつまでも続く夕暮れの中で、いつも頭について離れない「何の為に生きているのか」という思いにかられていた。多分それに対する答えは幾らでもあるのだが、そのどれもが彼に当てはまらないのだった。

彼は、船外検査作業に向かう為にアスリを呼び出した。ポットと呼ばれる、モノレールのような乗り物で甲板の上を移動し、作業した。外に出ると赤い光の反射の中に飲み込まれそうになる。不思議と安らいだ気分になり、しばらくその光を眺めていた。

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2009年2月 5日 (木)

俺の乗っている宇宙船のは、T-R87R-45特別輸送船Orpheus(オルフェウス)という、巨大な箱だった、オルフェと呼んでいた。

宇宙空間には塵やガス、星のカケラであるスターダストが幾らかあるが、ほとんど何もない真空状態の空間だった。

オルフェウスは、数週間前からガスが拡がる場所に入っていた。

恒星リウスは、赤色巨星だった、放出された水素のガスは濃い所では、霧のように見えた。

リウスの光線の波長の変化で、最初青白かった情景が、黄色から赤くなっっていた。夕焼けのようだった。

夕暮れの柔らかい光が水素のガスに反射して幾重にも重なり、地球にいるような錯覚を起こさせた。乗務員達は望郷の念にかられ切なく感傷的な気持ちになりがちだった。

「人間や地球上の生物は、もう滅びるしかないんだろうな」

いつも皮肉や悲観的な事ばかり言っているレミオは、黄昏状態の続く宇宙を眺めて言った。

「地球は滅んでも、宇宙中に散らばった人類は生き延びると思うよ」ギーガードはきょうのメインであるチキンステーキを切り分けてふたりに分けた。

「というか、俺は月で生まれ育ったから地球に対して思入れがないかもしれないけどな」

ギーガードのような地球を知らない人類は、何億人といた。

宇宙の夕焼け空に、幾つかの黒い丸い影が浮かんでいた。ほんの小さな点のようなものだったが、実際は地球の何十倍もの大きな惑星ばかりだった。

アスリがぼんやりと、黄昏た宇宙をながめていた。その表情は、物思いにふける人間のようだった。

「君は人間のような雰囲気を持っているなぁ」とギーガードはアスリに言った。

「・・・」

「懐かしいとか、そういう思い出にひたっているように見える」

「・・・そうかもしれません、地球にいた時を思い出します」

「アンドロイドも思い出にひたるんだなぁ」

アスリの人間臭さは、夕焼けになってから益々顕著に表れるようになった。

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2009年2月 2日 (月)

単調だし、退屈な毎日だったが、地球でのいたたまれない窮屈さ息苦しさはなく、俺にとっては気楽な日々だった。

宇宙船の気の遠くなるような長い旅での一番の危険は、退屈で刺激がない事だった。どんなに長い航海でも18ヶ月未満の勤務が義務づけられていた。

とにかくほぼ何もない。のがこういった輸送や探査船の特徴だった。

アスリの包帯を巻いた背中が、目に焼きついて離れなかった。その事について聞きづらいのだ。アンドロイドに対して気を使うなんて事は今までなかった。裸の彼女らを見た事はいくらでもある、有機的な人工皮膚に覆われた身体は美しかったし、体温まである精巧なアンドロイドもあるが、感情的なものは感じた事はなかった。

「アスリ、君はこの宇宙船に乗る前はどこにいたんだ?」

「ニューソエル月基地に勤務していました」

「どんな仕事をしていた?」

「運行システム管理、総務第二秘書でした」

「秘書?なんでまたこんな場末の輸送船のお手伝いさんなんかになっちまったんだ?」

「私は命令に従うだけです」

新型アンドロイドが配属されて、旧型は左遷されたのだ。アスリの見た目は若かったが、かなり年数がたっているんだろう。

「ノエルさんは何をされていたんですか?」

「俺は、クローン植物栽培の苗を製造販売する会社にいたんだ。全然面白くなかったよ」

「その植物は花を咲かせるんですか?」

「もちろん、咲くし色も形も自由自在だけど、交配しない種なしの花だ」

「私、種を蒔いて花を育てた事があるんです。」

「えっ?地球で?」

「はい、ずっとずっと昔の事ですが・・・」

アスリは物思いにふける人間のような表情をしていた。その横顔は、突然老け込んだように見えた。俺は人間にするように、アスリの首筋に手を伸ばし触れてみた。柔らかい培養人工皮膚の感触は人間と変わらなかったが、そのすぐ下に隠された機械からは冷たく無機的な感触が伝わった。

「ノエル、おまえはアンドロイドが趣味なのか?」

ギーガードは、俺と同じような人種だったのでよく話すようになった。

「それ用のアンドロイドでもっといいやつが、あるじゃないか?あんな中古がいいのか?」

「いや、そういうんじゃなくて」

「好みの問題だもんな」ギーガーの話の半分は女の事だった。彼はそういう部分での愛情についてよく知っていた。

「アスリは何か変わってるような感じがするんだ・・・」

「アンドロイドに惚れるやつはみんなそう言うよ、そして時がたって相手がロボットだと気づくんだ」

「・・・包帯を巻いてぐったりしてるアンドロイドっているのか?」

「包帯か・・なんだそれ?」

ギーガーに、アスリが時おり包帯をして、部屋でうつむいている事を話した。

「確かに変だな、調べてみればいいじゃないか、今は君専用みたいなもんだろ、面白そうじゃないか」

退屈な旅だったから、そんな些細な事が気になったんだろう。俺はアンドロイドについてほとんど知らなかったが、アスリに興味が沸いてきた。

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2009年1月30日 (金)

「まったく異常はないよ、あったらめんどくさいし」とカインは言った。

仕事の引継ぎで、別の班員と接触しているのは一ヶ月ほどだった。

通信関係と電気系統のメンテナンスがおれの担当だった。なんらかの故障やトラブルが起きた場合は、自己解決システムという能力があるこの宇宙船には、何の心配もいらなかった。

ただ、どんなに機械が発達しても使うのは人間で、指令をしなければ動かないのである。

カインは、楽観的でおおらかな感じの男だった。

「スリープの時、好きな映像をセットすると、面白い夢が見れるんだ。大昔の綺麗だった頃の地球とか最高だったよ」

スリープの時は、学習システムで仕事の事や目的地であるTーR87スコッティの言語をまなぶのであり、他の音楽や映像は禁止されていた。

「おれは夢って見ない、みたいなんだ」おれは実際、夢という感覚がわからなかった。

「憶えてないだけだろ、夢を見ないなんてないだろ」カインは、そう言って、またワインをグラスに注いだ。

スリープに入る一週間前の飲酒は禁止されているが、カインはあと2日でスリープに入るのだった。仕事さえしっかりやっていれば、ある程度の規則違反は許されていた。しかも、彼は副主任であった。

二つの班が起きていて、仕事の引継ぎやゲームをして楽しんだりする一ヶ月が過ぎ、一班がスリープに入ると、淡々と静まりかえった宇宙船は、時間が止まってしまったように何の変化もなく、日々が過ぎていくだけだった。

船内には何体ものアンドロイドが働いていた、もちろん彼らは冬眠しない。おれの身の回りの世話をしてくれる女性型アンドロイドは、アスリという名前だった。

「君は、この船は長いの?」

「2回目の航海です」

「それじゃスコッティに行った事があるのか。昔の地球のような環境に近いとかいうけど、どうだった?」

「有機物がいっぱいあります」

「生物とか、植物がいっぱいあるという事か?」

「はい」

アスリは20代の女性ぐらいの感じだった、今までもたくさんのアンドロイドを見てきたが、体系も体格も、顔もバラバラで違っているのだった。アンドロイドとロボットの大きな違いは外見だが、人間の感情を読み取らせたり、感情的な表現をさせる為に選ばれた個人の記憶をインプットするという事が大きな違いだった。

いつものようにメンテナンスを終えて帰ろうとした途中、用事を頼もうとアスリの部屋へ行くとドアが半分開いていて中が見えた。

上半身裸のアスリが、鏡ごしに自分の肩から腕にかけて包帯を巻いているのだった。アンドロイドがケガをするのか?彼女の姿は何かたよりなく寂しげだった。

おれはそのまま自分の部屋に帰り、そのまま眠ってしまった。

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2009年1月28日 (水)

スリープ状態から、目覚めると体中に何本もの管が取り付けられ、筋肉を刺激するカプセルに入れられている。このマッサージによって、筋力が衰えないようにされる。

自分で、排出などできるまで3日間、普通に歩行するのに一週間、元の身体にもどるのには、3週間を要した。

その間の世話は、女性型アンドロイドがしてくれる。

「他のメンバーの様子はどう?」

「異常ありません」

窓の外には、かなり明るい恒星が見えた。それがリウスという太陽であれば、まったく何の狂いもなくこの宇宙船が航海してきた事がわかる。

これからの一年間のスケジュールは、すべてが決められているが、まったく自由だった。

(小説の起承転結だと、ここまでが起承の入り口になる。ここから何かが起こらないとストーリーが転がっていかないが、それが浮かばないから、漫画とか描けないのだ。)

俺は、人工授精による政府の計画出産児だった、生まれるとすぐに育児センターで、育てられた。人工の60%がそうだった。アンドロイドが育児も看護も、介護も行うようになって家族というシステムは、滅びようとしていた。

恋愛して普通にセックスをしても、受精しないし、妊娠しないのが普通なのだった。

クローンによってかろうじて生き延びている絶滅危惧種がほとんどだった。

俺は若い頃には、恋愛して家族を持つ側になるつもりだったが、人を好きになる、愛するという感覚が自分にはない事がわかった。俺はただ生まれて、生きるだけの人工の数合わせだけに過ぎなかった。

それでも、ほとんどの人工授精児達も結婚し、新たな人口授精児の里親になる人生を送り、ロボットに介護され死んでいくのだった。

何の動機もなく、おれは長年クローン栽培の植物生産会社で働いていた。が、何の目的も無く、希望もなかった。

「何の為に生きているのか?」

地球に未練はなかった、どんな仕事でもいいから宇宙船に乗り込み地球から離れたかったのだ。

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